2008年12月12日金曜日

キューバ、試されるラウル外交 多角化路線、保守派と確執

http://www.business-i.jp/news/special-page/oxford/200812020007o.nwc

産経ニュース 2008/12/2

11月中旬から下旬にかけ、中国とロシアの首脳が相次いでキューバを訪れ、それぞれキューバとの関係強化を確認した。キューバのラウル・カストロ国家評議会議長は、豊富な石油資源を持つ同盟国ベネズエラへの依存体質から脱却しようと、外交の多角化を推進している。この政策はキューバにとって極めて重要だが、改革派のラウル議長と、保守派との対立が激化している。
■分析
 11月17日~19日にキューバを訪問した胡錦濤中国国家主席はラウル議長の兄で共産党ナンバーワンのフィデル・カストロ第1書記(前国家評議会議長)を見舞うとともに、ラウル議長と会談した。ロシアのメドベージェフ大統領も同27日にラウル議長と会談。ロシアは旧ソ連時代に続き、再びキューバの重要な経済パートナーになりつつある。
 中露首脳によるキューバ訪問は、キューバが国際舞台で重要な地位にあるだけでなく、中露両国がラウル国家評議会議長の実利的外交政策を支持していることを示すものといえる。ラウル議長の外交には米国を刺激する意図は込められていないが、キューバは世界で共産主義体制が崩壊した1989年以降で初めて、中南米以外の国と強力な関係を築きつつある。
 ≪ベネズエラの介入≫
 メドベージェフ大統領は、ベネズエラとブラジルに続きキューバを訪問。アメリカ大陸でロシアの存在感を高めた。米国に近い中南米諸国との関係強化に込められたロシアの地政学的な動機は明らかだ。
 しかし、ベネズエラのチャベス大統領がロシア艦隊をカリブ海での共同軍事演習に招いたのに対し、キューバのペレス外相は先に、ロシア軍の立ち寄りをはっきりと拒否している。
 キューバはここへ来て欧州や中南米諸国との関係を急速に改善。10月にEU(欧州連合)との協力協定に調印し、5年間にわたる緊張関係に終止符を打った。協定には、政治対話の再開が盛り込まれ、人権問題も話し合われる見通しだ。
 これに続き11月14日には、22の中南米カリブ海沿岸諸国で構成するリオ・グループへの加盟承認を受けた。キューバの加盟には、米国の友好国が長い間反対してきたが、米国のキューバ孤立政策が破綻(はたん)したことを示すことになった。
 10月29日の国連総会では、米国のキューバへの禁輸を非難する決議が185対3(反対は米国、イスラエル、パラオ)で採択されている。
 ラウル議長の外交多角化には身内からも反対意見が出ている。ラウル議長が国家元首としての初の外遊先にブラジルを選んだと発表したとき、内紛をうかがわせる綱引きが行われた。
 ブラジル訪問は12月17、18日に開かれる「ラテンアメリカ統合連合(ALADI)」首脳会議に出席するためだが、フィデル前議長は党機関誌で「いくつかの中南米諸国が、キューバの体制転覆を狙う米国の計画を助けている」と事実上ブラジルを名指ししてラウル議長の方針にかみついたのだ。
 これは、ブラジルのルラ大統領がホワイトハウスにオバマ次期米大統領を訪ね、「キューバの体制移行を促すため」として、キューバへの禁輸解除を求めた直後のことだった。
 これだけではない。キューバをめぐっては、ルラ大統領が今年初めにキューバを訪問しキューバにとって中南米最大の経済パートナーになりたいと表明したときからブラジルとベネズエラの間にも対立が起きていた。
 チャベス大統領は、今回のラウル議長のブラジル訪問の発表後、唐突に「ラウル議長はブラジル訪問の前にベネズエラの首都カラカスで国賓として歓迎されるだろう」と発表したのだ。
 この日程変更が、ラウル議長の知らないところで画策されたのは明らかだ。空港で胡錦濤国家主席を見送っているときに記者団から確認を求められたラウル議長は驚きを隠せなかった。
 チャベス大統領はベネズエラの経済力を駆使し、キューバ国内でのラウル議長の影響力そぎ落としに成功しているようだ。
 ≪改革足踏み≫
 キューバの外交方針をめぐる綱引きは、キューバの政治機関内部の分裂として表面化し始めた。ラウル議長の経済改革計画は、反改革派からの圧力により逆行とまではいわないまでも、事実上、停滞している。
 ラウル議長の公約だった公開社会討論は実質的に停止。キューバの改革派の政治エリートの発言も勢いを失いつつある。ラヘ副大統領の息子は、説明なしに学生団体リーダーの座から追われた。
 ラウル議長は共産党と軍のなかで地位を固めようと努力している。しかし、穏健な改革テーマにさえ歯止めをかけようとする保守派が引き合いに出すのは、ラウル議長ではなく、いまでもフィデル前議長だ。
 ■結論
 9月のハリケーンで被害を受けたことを機に、キューバの経済改革はとりあえず終わりを告げ、中央集権と国家管理の動きが、再び活発化している。しかし、舞台裏では、将来の方針をめぐり保守、改革派同士の緊張が高まっており、新しい改革の提案が出る可能性もある。一方、ラウル議長は外交面で多角化に比較的成功している。だが、ベネズエラは現在でもキューバにとって最大の貿易相手国であり、政治的同盟国だ。チャベス大統領がキューバの政治エリートらに持つ影響力が、保守派を支えるかぎを握るとみられる。

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